大手通坂之上町地区に整備する「米百俵プレイス ミライエ長岡」の模型の前で
ポストコロナ時代のまちづくり
新型コロナウイルスの影響で、新たなライフスタイルの広がりやデジタル化の進展など、社会に大きな変化が起きています。そのような中、新しい価値観と社会システムに対応した働き方や産業の創出、人づくりに挑戦する人たちがいます。活動に込める想いを通して、これからの時代における長岡のまちの可能性を磯田市長と共に語っていただきました。
【進行はFMながおかパーソナリティの山田光枝さん】
山田(進行) 今、新型コロナウイルス感染症の影響で、社会に大きな変化が起きています。本日は、そのような中で「新たな価値」を生み出そうと挑戦を続けるみなさんからお集まりいただきました。
市長 ウイルス禍で、自分にとって本当に価値のあるものが何かを考えた人は多いのではないでしょうか。あらゆるものの変革を余儀なくされる今こそ、やりたいことを始めるとき。そこから生まれた新たな価値が、さらに素晴らしい長岡をつくっていくと思います。
変化を受け入れる、それぞれの挑戦
市長 感染拡大を防ぎながら経済活動を維持するバランスは、引き続き考えなければいけません。その上でポストコロナ時代をつくっていく。今年の市政のテーマです。
大原 商工会議所では新たにSDGs※1の勉強会とDX※2研究会を立ち上げました。産業界にとって、この二つはもう避けて通れないキーワード。特に脱炭素社会を目指すことは喫緊の課題です。これからの時代、環境へ配慮しないと経済は健全に発展しません。
市長 長岡市では今後の産業の柱の一つとして、地域で資源が循環する社会、いわゆるバイオコミュニティ※3の形成を進めています。
大原 バイオは、資源を小規模で地産地消できることが重要ですね。エネルギーも地域でつくり、地域で使う。その積み重ねが再生可能な社会につながります。
市長 市では家庭用生ごみをメタン発酵させて発電しています。最終的には、市内で発生する全ての生ごみを活用したいですね
アデリン 私は主に錦鯉の水槽の水をきれいにする研究をしています。微生物を利用したろ過装置で、水をほぼ入れ替えなくて大丈夫なんです。
ろ過装置を付けた水槽。実証実験を行った養鯉場の鯉が、
長岡市錦鯉品評会で2年連続の最高位を受賞しました
市長 これも循環ですね。
アデリン 最近は防災にも力を入れています。貯めた雨水をきれいにして、トイレやシャワーに利用できるんです。使った後の排水も再利用できるので、水がたくさん必要な避難所で役立ちます。
板垣 僕は「デザイン思考」を手掛かりに、地域の課題解決や新しい発想につなげる取り組みをしています。その一つが、令和2年度から始めた「長岡市×長岡造形大学大学院イノベーター育成プログラム」(以下「いのプロ」。)。現役の大学院生が地域おこし協力隊として活動する教育プログラムです。
現在4人が所属する「いのプロ」。障害児・者支援や
地域資源の活用など、それぞれ異なる研究に取り組んでいます
山田 デザイン思考は、物ではなく人間中心の視点で考えるものだそうですね。
板垣 全ての人にとって便利で快適なものを目指すのは大切ですが、取り残される人も必ず出てきます。デザイン思考では、初めからこういう物を作ろうと決めずに、特定の人が何を必要としているかを考えることから始めるんです。
上田 私は市民センターにあるナデックベースを拠点に、学生同士や学生と企業のつなぎ役をしています。異分野の人たちで新しい活動や産業をつくろうという施設なので、学生にも企業にもどんどん利用してほしいです。
山田 学生が参加しやすくなる工夫はありますか。
上田 11月から「長岡の面白い大人を知ろう」がコンセプトのトークイベントを始めました。長岡は良い意味で変わった人が集まっているまち。他とは違う視点を持つ人がたくさんいることを学生にも知ってもらいたくて。インスタグラムでも配信をして好評でした。
NaDeC BASEで開催したトークイベント「私の推しになってください!」。
上田さんと学生が企画しています
市長 長岡には4大学1高専、専門学校が15もあって、学生も研究者も大勢います。産業界もこれまで多くのものを築き上げてきました。こんなまちは他にありません。「何かやるならまず長岡に行ってみよう」と思ってもらえるようにしたいんです。
起業という選択を後押しするまち
市長 8月から、長岡で暮らしながら首都圏の企業にリモートワークで勤める「ナガオカワーカー」制度が始まりました。サテライトオフィスの誘致も進めています。多様な働き方の発信で、ぜひ人口増加、地元企業のビジネスチャンスにつなげていきたい。
4月から採用予定のナガオカワーカー1期生。
県内出身の学生たちが新しい働き方を実践します
大原 大量生産・大量消費の時代は終わって、今は個性の時代になったと思います。だからこそウイルス禍でも起業・創業が生まれる。プログラムやアプリはお金がなくても作りやすいし、チャンスは今までよりもあると思います。
市長 そうですね。私は「あったらいいな」という発想からアイデアを見いだして、その先に事業が生まれるといいなと思っています。
板垣 大事な視点ですね。「いのプロ」では、みんな自分の好きなことに取り組んでいます。楽しさはやる気につながりますよね。ただし、やりたいことをやるだけでは自己満足。地域課題を解決し、誰かの役に立つような新しいものをつくり上げることがゴールです。
上田 若者の活躍や挑戦は、まちの活性化への力になります。でも、大人がやってほしいことの押し付けは、若者にはプレッシャーです。
板垣 起業自体を目標にすると、ハードルが上がると思います。起業はあくまでも、自分のやりたいことを実現するための一つの手段。
大原 自分の夢や趣味を突き詰めていった先で、仕事になることがある。それが理想ですよね。
板垣 大人の役割は、背中を押してあげることです。隊員の1人が、一緒に活動する企業の方に「あなたのためならやりましょう」と言ってもらえたそうです。いろんな人の助けで何にでもチャレンジできるのは、長岡の魅力です。
上田 長岡はローマ字書きして頭文字を取ると「NGOK(エヌジーオーケー)」なんですよね!失敗を恐れずチャレンジできる環境は、学生以外にも大切だと思います。
大原 小さなNGを積み重ねて成功に近づく。まずは何かやってみることが大事ですね。
アデリン 最初は完璧じゃなくても、意見交換をすればより良い方向に進めます。実は私も事業化を考えています。初めは家で魚を飼っている人に水槽を売るつもりでした。でも、いろんな人の声を聞いて、私たちの技術が養殖用の水槽にこそ活かせると気づいたんです。
市長 同じ技術を別のところに。
アデリン 長く水を替えないと水槽に藻も が生えます。観賞には透明な水槽が良いので、さらに手を加えないといけません。でも、養殖で大事なのは魚が病気にならないことだから藻が出ても大丈夫。結果的に、買ってくれるのは個人より養殖業者の方が多いと思います。
市長 意図せず喜んでもらえることもありますね。アオーレ長岡はよく高校生が放課後におしゃべりや勉強をしていますが、実は全く想定していませんでした。そこからテーブルの配置などを工夫して。やはり評価してもらって、つくり直していくことは大事ですね。
アデリン 長岡市は起業家への補助金がたくさんあって素晴らしいです。でも、書類や手続きが難しいとチャレンジの障害になるかも。
上田 起業したら人を雇って、税金を納めて…やることがたくさん。
大原 商工会議所では、法律や税務などの専門家からアドバイスがもらえます。情報交換や仲間同士で励まし合える場もありますよ。
市長 「米百俵プレイス ミライエ長岡」は市の商工部、ナデックベースが入ります。商工会議所とも連携するので、サポートの幅が広がります。
アデリン 学生を連れていきます!
上田 私も頑張ります!
多様性を認め、誰もが暮らしやすい環境に
市長 誰もが活躍できるまちを目指すために、ダイバーシティ、つまり多様性を考えることも今年の大きなテーマです。その一つとして、女性の働きやすい環境づくりを進めていきたい。
上田 学生のときはあまり気になりませんでしたが、社会に出てから、女性に対する偏見のようなものを感じたことがあります。
大原 多くの会社で、まだまだ女性の管理職は少ない。働く女性の数が増えれば、自然と管理職も増えますよね。例えばリモートで仕事をしながら子育てもできれば良いと思うんです。理解を深め、会社も変わっていくことが大切です。
アデリン 在宅勤務ができると働きやすいですね。私には2歳の子どもがいるんですが、今は感染症の関係で、風邪の症状があると登園できないことが多いです。在宅勤務ができない職場で、頼る人もいなかったら、どうすれば良いかわからなくて困ると思います。
大原 外国人の働く環境も課題ですね。長岡は留学生が多いけれど、社会人としてとどまる人はまだ少ないと感じます。どちらの問題も市と一緒に考えていきたいです。
上田 長岡高専は留学生も多いから、多様性の面でオープンな気がします。私のクラスにも留学生がいて、言葉の壁を感じないくらいみんなと仲良しでした。
アデリン それは寮に住んで、日本のことを早く吸収できるから。アパートに1人で住む外国人にも交流機会が多くあると良いですね。
大原 私の会社でもベトナム人の技術者を雇ったけれど、ホームシックになって帰っちゃったんです。そういう人が集えるような仕掛けがあると、長岡ももっと国際都市になっていくと思います。
市長 子育ての困りごとは、市の担当部署や通っている保育園にぜひ相談してください。そして国際交流センター「地球広場」は、外国人のための相談窓口であり、交流の場でもあります。それを広めていく必要がありますね。
ミライエから生まれる新たな価値
市長 私はミライエをオープンな場にしたいと考えています。人材を閉じ込めるのではなく、誰でも自由に出入りできる場に。
山田 上田さんはナデックベースでの活動をミライエでどのように発展させたいですか。
上田 みんながやりたいことをパッと言える空間にしたいですね。昨年の「HAKKO trip(ハッコー トリップ)」で、違う酒蔵のお酒を組み合わせて飲みやすくして、日本酒が苦手な人にも飲んでもらおうという企画をやりました。発端は、学生が「お酒が大好きだから、酒飲みを増やしたい」と言い出したことなんです。そんなときに若者の来場を増やすために何かできないかと声が掛かって。このイベント参加をきっかけに企業から学生に仕事のオファーも来たんです。声を出すことの大切さを実感しました。
板垣 年齢も性別も役職も関係なく、対等に自由な意見を言い合って、受け入れられる環境は大事です。そんな場所ならすごく面白いことができそうですよね。
上田 その企画も、最初は周りの人から「違う酒蔵のコラボは駄目でしょ」「そんな話に乗ってくれるかな」って心配されて。でも酒蔵のみなさんは全然嫌な顔せずにやってくれました!
大原 企業と企業がいきなり結びつくのはなかなか難しい。学生や大学が間に入って一緒になるのは素晴らしいですね。私の会社でも、造形大にお願いしてカレンダー作りのコンペをやりました。これからはそういう感覚が企業にも増えていくんじゃないかな。
板垣 何時までっていう門限みたいなものがないとうれしいです。時間の制約があると「今日は行くのをやめよう」となりますから。
大原 七夕やクリスマスなど、月変わりでイベントがあると楽しそうですね。リラックスした雰囲気から、アイデアは生まれます。
アデリン ここで長岡の未来を担う子どもたちを育てることができたら良いですね。放課後、親が帰宅するまでの居場所にもなります。
市長 互尊文庫を移転した新しいスタイルの図書館もできるので、幅広い世代の方に来てほしいです。夢を描いて、みなさんにたくさんアイデアを出していただけるとありがたいです。年齢や性別などを問わず多くの人に出会い、みんながひらめく場所にしましょう。
模型を囲んでミライエの展望を語る参加者
ポストコロナ時代へ 新たなスタート
大原 やはり今年はポストコロナに向けたスタートを切りたいですね。そのために、経済界・産業界にいろんなことを興していきたい。
山田 まさに興す人ですね。
大原 ありがとうございます(笑)。ことを興すには、交流が一番。新しいことをさまざまな人たちとつくっていきたいです。
板垣 今までやってきたことを続けながら、さらに新しい動きにつなげたいです。来年度はJICA(ジャイカ)(国際協力機構)で開発途上国にデザイン思考を広めるプロジェクトを始めます。現地の人たちの前向きに挑戦する気持ちを育てられたらいいなと思っています。
アデリン 私は昨日よりさらに良いものをつくって、社会に貢献できる人になりたいです。起業をしたら、いずれは海外への展開を考えています。特に東南アジア。エビの養殖が盛んなので、そこで水に問題があれば日本にいる私たちの食卓にも影響が出ます。そういう場所にシステムを提供したいんです。
上田 学生や企業のみなさんのことをもっとよく知りたいです。学生に相談されたら「こんな人がいるよ」ってすぐに紹介して、つなぐことができたらいいなあって。
市長 感染症によって、動きが止まったと見る人もいますが、私はこの2年間、市民はエネルギーを貯めてきたと思うんです。次はそのエネルギーから、多くのことが生まれてほしい。だからこそ、今年は長岡まつりの花火を打ち上げたい!新しいことに挑戦する人が花火を見て「頑張ろう」と思ってくれる場面を、今まで何度も見てきました。みなさんは初めて長岡花火を見たとき、どうでしたか。
アデリン 泣きました。
上田 わかります!
市長 花火を愛して大切に育てているまちは、そこにいるだけで元気になります。そして長岡には「米百俵」の精神がある。教育によって人が変わり、まちが変わる力があるんです。今年はそのエネルギーを放出して、新しい価値を生むために新たなまちづくりに挑戦していきます。貯めた力を思う存分発揮して、みんなで頑張っていきましょう!
※1 SDGs(エスディージーズ)…持続可能な開発目標
※2 DX(デジタルトランスフォーメーション)…デジタル技術を用いた事業や組織の変革
※3 バイオコミュニティ…環境に優しく、持続的で循環可能な経済活動を行う社会
★ 「米百俵プレイス ミライエ長岡」への期待の声は8ページ
夢や趣味を突き詰める
その先に、起業がある
大原 興人(おおはら おきと)さん
令和3年11月から長岡商工会議所の会頭に就任。国内唯一の雪上車メーカーであり、環境分野でも事業を展開する椛蛹エ鉄工所の代表取締役社長を務める。
みんなが声を出せるように
多くの人を知り、つないでいく
上田 夏子(うえだ なつこ)さん
長岡工業高等専門学校出身。令和3年度から地域おこし協力隊に着任。産学官の活動・交流の場「NaDeC BASE(ナデックベース)」を拠点に、NaDeCの情報発信や学生企画の支援に取り組む。
最初は完璧じゃなくていい
昨日よりさらに良いものを
ヌル アデリンさん
マレーシア出身。長岡工業高等専門学校、長岡技術科学大学を経て、博士課程を修了後、同大の助教に就任。水問題の解決に取り組む。
自由に言い合える場所で、
面白いことは生まれる
板垣 順平(いたがき じゅんぺい)さん
デザイン思考の教育・普及に取り組む。制度設計とコーディネートを行う「長岡市×長岡造形大学大学院イノベーター育成プログラム」で、令和3年度グッドデザイン賞を受賞。
長岡には、変わる力がある
貯めたエネルギーで
新たな挑戦へ
磯田 達伸(いそだ たつのぶ)市長